イチリンソウの特徴
みなさんはスプリング・エフェメラルという言葉を聞いたことがあるでしょうか。エフェメラルとは、はかない、短命という意味で、春のはかない植物と理解すればいいでしょう。
早春に茎や葉が地上に表れ、初夏には枯れてその後は地下で過ごします。そのため、1年のうちのわずかな期間しか人間の目に触れることはありません。イチリンソウはまさにそんな花で、春植物とも呼ばれており、他にフクジュソウやカタクリ、ユキワリソウもスプリング・エフェメラルの仲間です。
ひとつの株に一輪の花を咲かせることからイチリンソウの名が付いたのですが、充実した株だと花をふたつ咲かせることもあります。同じ仲間に花を二輪咲かせるニリンソウがありますが、それと間違えないようにしましょう(ニリンソウは食用にしますが、イチリンソウは毒性があります)。
基本データ
難易度 | やや難しい |
流通名 | イチリンソウ、イチゲソウ |
成長速度 | 普通 |
花・種 | 花期は4~5月。20~30cmの茎の先に4cm径の花を咲かせる。ただし、花弁はなく、花のように見えるのはガクで、色は白。裏側はほんのりとピンクを帯びることもある。果実は細い卵形で種子は3㎜前後 |
日照量 | 日当たりのいい方が花つきはいいものの、日陰でも十分育つ |
温度 | 耐寒性、耐暑性とも普通 |
湿度 | やや湿気のあるところを好む |
花言葉 | 追憶、久遠の美、深い思い |
イチリンソウが好む環境
日当たりと植えるのに適した場所
イチリンソウは本州や四国、九州の野山に自生し、草原や落葉樹の木陰を好み、そういうところではしばしば群生が見られます。
花が咲くまではたっぷりと日光に当て、花後は木漏れ日をイメージできる程度の遮光を施しましょう。初夏の直射日光を浴びると葉が傷み、次の年の花が期待できなくなるからです。できれば緩やかな風が当たる場所が理想といえます。
地植えの場合は落葉樹の周囲の緩い斜面が望ましく、そうすれば日当たりと水はけの好条件が満たされるはずです。初夏になって落葉樹の葉が繁り始めると、イチリンソウは地上部が枯れ落ち、休眠期に入ります。
温度・湿度
暑さや寒さに対しては特に強い・弱いというのはないのですが、高温や乾燥には弱い部類に入ります。そこで、花が終わって葉が枯れ始めたら木陰や棚下などの日陰に移動させてください。
冬季は地上部がないため雪が降っても霜が下りても問題はありません。ただ、土の中が凍ると根がダメージを受けますから、その点には注意する必要があります。
多湿は禁物で、特に春先の気温が低いころは灰色かび病が発生しやすくなるので要注意です。といって、乾燥させすぎてもよくないため、こまめなチェックが欠かせません。
用土
イチリンソウの用土は通気性と水はけを優先させます。といっても、難しいものではなく、市販の山野草用培養土で十分です。
自分でミックスする場合は赤玉土5、鹿沼土4、軽石1(いずれも小粒)の割合で混ぜます。赤玉土と腐葉土の混合を利用する場合は7対3で。ただし、これは暖地での処方箋です。寒冷地では鉢内が凍りにくいように割合を逆転させて赤玉土3、腐葉土7にすればいいでしょう。
地植えでも腐葉土は大いに役立ち、冬は凍結防止に、夏は乾燥を防ぐ意味でよく働いてくれます。冬が寒いところほど腐葉土を多くした方が効果的です。
イチリンソウを上手に育てるコツ
水やり
乾燥を嫌いますから生育期は毎日チェックし、用土の表面が乾いた時点で水やりをします。その状態で水やりを続けると多湿になり勝ちなのですが、水はけのよい用土を使用することで根腐れが防げるのです。
花が終わって葉が枯れ始めたら乾燥具合は無視して2~3日に1回程度と控え気味にします。そして地上部が完全に消滅して休眠に入ると多湿は避け、用土が少し湿っている程度で管理してください。
地植えの場合は基本的には自然に任せます。よほど晴天が続いて極度に乾燥したときだけ水やりすればいいでしょう。
肥料の与え方
大半の野草は肥料などなくても十分育つのですが、イチリンソウに限ると肥料で株を肥培させた方が花つきはよくなります。といって、無闇に施肥すればいいものではありません。植えつけ・植え替え時は緩効性の化成肥料を元肥としてひと鉢に数粒与えます。
イチリンソウの根は鉢の中でいっぱいになりやすく、中途半端な深さに施肥すると根と肥料が接触して根が傷むのです。元肥は鉢底近くに埋めてください。芽出し時期からは月に1回程度、やはり化成肥料を置き肥します。
また、同時に2週間に1回、液肥を与えます。休眠期の肥料は必要ありません。
イチリンソウ冬越し
休眠期は地上部がないため雪や霜、冷たい風を防ぐ必要はありません。耐寒性も備えています。ただし、土が凍結すると根がダメージを受けるため、地植えの場合、寒冷地では落ち葉や腐葉土でマルチングをしてください。
鉢植えは軒下などに移動させます。もうひとつ注意してほしいのは、まだ寒い2月ごろに芽が出た場合です。この時期はまだまだ冷たい風が吹くし霜の可能性もありますから、寒冷地でなくても風除けをしたりするなどの対策が必要になります。
イチリンソウの選び方
通販では地上部がない状態で届くことがままあり、株の状態をチェックできない場合が少なくありません。
さらに、イチリンソウは花つきがあまりよくなく、ていねいに肥培管理しても50%程度の開花率ですから、その年に開花しなかったとしても翌年を目指してください。
イチリンソウの増やし方
多年草ですから株分けが確実です。植え替えしたときにいくつかの株に分けるのですが、あまり細かく分けないようにします。
実生は、花後に熟した実から種を採取して取り蒔きするというのが基本です。発芽するのは翌年の春ですから、9~10か月は乾燥させないように管理しなくてはなりません。
発芽率は高いものの実際に開花するまでは短くても4~5年はかかりますから、気が長くないと続けられません。咲いたときはいつ植えたものかまったく覚えてないケースが大半です。
イチリンソウの植え替え
この植物は根茎が横に伸び、鉢内を這い回る性質があるため、意外に早く根でいっぱいになって鉢底から出てくることもあります。そこで、できれば2年に1回、遅くても3年に1回は植え替えてください。
適期は秋
花や実が終わったあとで休眠に入る秋の彼岸頃が植え替えの時期です。春にポット苗を入手してもそのままで育て、植え替えは秋まで待った方が賢明でしょう。
どうしても春に植え替えする必要がある場合は根や葉を傷めないようにていねいに抜いて、鉢の隙間にそっと用土を詰めてください。
鉢はやや深めを選ぶ
イチリンソウは成長しても20㎝程度までしか伸びませんから(地植えでは30㎝にまで成長)、浅鉢の方が向いているような気がします。
しかし、根の回り方は早いためややや深いものを選んだ方がいいでしょう。また、通気性と水はけのよいものが理想的なので山野草鉢や駄温鉢が向いています。
作業は優しく手早く
イチリンソウの根茎は細くて繊細で、乱暴に取り扱うとすぐ折れてしまいます(それほど悪影響はありませんが)。ですから、優しく、それでいて手早く植え替え作業を行ってください。乾燥しすぎるとダメージを受けるからです。
病気・害虫
乾燥を嫌うからといって多湿にするとカビが原因の炭そ病、灰色かび病、白絹病が発生しやすいため、用土の水はけに注意し、また水やりは株元にだけ注ぎます。花がらが落ちたらこまめに拾って処分してください。
害虫は生育期にアブラムシやナメクジの被害に遭うことが多く、アオムシが食害することもあります。観察して発見したらすぐ捕殺しましょう。
毒性や危険性について
同じ仲間のアネモネは株全体に有毒成分を持ち、その毒・プロトアネモニンはイチリンソウにも含まれています。
茎を折ると分泌液が流れ出て、それが皮膚に触れるとかゆみ、傷みをともないますから、園芸作業をするときは長袖を着て手袋をしてください。