袋状の大きな花を咲かせるラン科の山野草、アツモリソウの育て方をまとめているページです。
アツモリソウの花は紫で、写真はレブンアツモリソウという種類です。
アツモリソウは栽培が難しい植物ですが、育てる際のポイント等について解説していきます。
アツモリソウの特徴
アツモリとは平敦盛(たいらのあつもり)のことです。源平合戦の折り、一ノ谷の戦いで源頼朝の武将である熊谷直実(くまがいなおざね)に討たれました。直実は首を落とそうとする直前に敦盛の美しく幼い容貌を見て逃がそうとします。
しかし、敦盛は自分の名前を告げることなく、この首を見せれば手柄になると助言して直実はその言葉通り首を落とします。その後、直実は出家するのですが、武将が戦いにおいて後方からの矢を避けるため背中に背負った母衣(ほろ)をアツモリソウの大きな花に見立て、武将の名がつきました。
同じラン科アツモリソウ属のクマガイソウも語源は同じです。
わが国では北海道から本州にかけて分布し、冷涼な気候を好み、草原や明るい疎林に自生しています。東洋ランの中では最も花が大きく、野生ランのプリンス、野生ランの王など呼ばれています。
それが理由で乱獲・盗掘が激しく、現在野生のアツモリソウが確認されているのは福井、山梨、長野県だけといわれています。
特定国内稀少野生動植物に指定されていますから、自生している株を採取すると法律違反になります。現在流通しているのは人工的に繁殖されたものですから、それを販売するのは問題ありません。
基本データ
難易度 | 難しい |
流通名 | アツモリソウ |
成長速度 | 普通 |
花・種 | 5~7月に開花する。袋状の唇弁はピンク、紅紫色、淡紅色、白など。茎の先端にひとつ(まれにふたつ)の花を咲かせる。花後に結実すると小さな種子を形成するものの、市場には出回っていない。実生しようとすれば自分の株を利用するしかない |
日照量 | 適度な日当たりを好むものの、夏に高温になる場所では日当たりを犠牲にして遮光する |
温度 | 耐寒性は強く、耐暑性は弱い |
湿度 | 適度な湿気は必要だが、過湿はよくない |
花言葉 | 君を忘れない、移り気、気まぐれ、変わりやすい愛情 |
アツモリソウが好む環境
日当たりと植えるのに適した場所
日当たりは好みますが強い日差しを避けなければならず、その辺りの兼ね合いを調整するのがアツモリソウ栽培の難しいところです。
立派な花を咲かせるには栄養が必要で、その栄養を蓄えるのは葉と日光です。そのためには日当たりが欠かせません。といって、日差しが強いと葉焼けしますから、時期に応じて遮光を調節しなければなりません。
柔らかい日差しの春と秋は20~30%程度遮光します。日差しが強くなるにつれて少しずつ遮光率を高くして、夏になれば70~80%は遮光しなければなりません。
地植えではこのような調整はできませんから鉢植えがベターなのですが、条件が恵まれていれば地植えに挑戦してみるのもいいでしょう。その場合は、他の植物の根がはびこってない湿ったところを選んでください。
温度・湿度
アツモリソウの生息地を見ると、緯度の低いところは高地に、高い地域では低地に分布しています。つまり、低温を好むということです。反対に高温は嫌います。
そのため、夏は20度を超えるところで栽培しようとすれば対策が必要になります。
よく用いられているのが発泡スチロール製の鉢です。発泡スチロールは断熱性が高く、しかも価格が安く、サイズはさまざまなものがありますから選択肢は広いというメリットがあります。
植木鉢を大きな発泡スチロール製の箱に埋めるという二重鉢という方法も効果があります。ほどよい湿気を好みますから乾燥には弱いといえます。
用土
赤玉土や鹿沼土、それに腐葉土を混ぜて、水はけがよく、なおかつ水持ちもよい条件を満たすことは可能で、そのような用土を利用して栽培している人は少なくありません。
ただ、近年新しいコンポストが開発され、徐々に人気を集めています。それがクリプトモスというもので、スギとヒノキの樹皮を材料としています。繊維質ですから通気性は非常によく、根が空気を好むラン科の栽培に適しています。
さらに、ヤシの実チップを原料とするベラボンというコンポストも登場しており、このふたつを混ぜることでアツモリソウは非常に育てやすくなっています。ぜひ試してみてください。
アツモリソウを上手に育てるコツ
水やり
春に芽出ししてから開花まではたっぷり水やりします。ただし、茎が軟らかいので濡らさないように鉢の縁から水を注ぎます。
高温期に多いのですが、アツモリソウは軟腐病にかかりやすいため傷つけないように注意してください。
クリプトモスを使っている場合は、表面を少し押してみて水分が減ったと感じた時点で水やりをします。夏場は乾きやすいから、可能なら一日に何度もチェックしてみてください。
冬は休眠期ではあるものの、やはり水切れは禁物です。ただし、凍らせないような配慮が欠かせません。
肥料の与え方
立派な花を咲かせるには株の充実が欠かせず、そのためには光合成を司る葉を大切にしなければなりません。そして、それを実現するには肥料の助けを借りる必要があります。
特に、鉢植えでは肥料が大きな役割を果たします。芽が出てから葉が展開する間は油かすや骨粉、発酵鶏糞などの有機質肥料を1度施肥します。ラン用の液肥でも効果はあります。また、花後から梅雨明けまでは翌年の新根や新芽が育つ大切な時期ですから、この期間にも同じ肥料を与えます。
晩秋の11月になると落葉して休眠期に入りますから(実際はもっと以前に葉が落ちるはずです)、この前にも施します。いずれも鉢の縁に置き肥して、根を傷めないように株からできるだけ遠ざけます。
冬越し
低い温度を好み、冬の間は葉を落としていますから冬はなにもする必要はありません。ただ、鉢の内部が凍ってしまったらその状態を春まで継続させてください。凍ったり溶けたりを繰り返すと根がダメージを受けます。
新芽が出るのは、一般的には3月なのですが、エリアや条件によってはもっと早い時期に出ることもあります。そうなると冷たい風や霜、積雪によって新芽が傷む可能性があり、それを防ぐにはバーク堆肥などでマルチングすると効果が見込めます。
また、植え替えたばかりの株はダメージを受けやすいため凍結しない場所に移動させた方が賢明です。
アツモリソウの選び方
アツモリソウを入手しようとすれば販売店から購入するのが一般的ですが、高価なものは10万円を超えるケースもあります。
価格の差は花の形や色、品種による稀少性などですが、株の状態による差ももちろんあります。それが花芽、葉芽の数です。いうまでもなく、芽の数が多いと高価になります。
芽の数が多いとバルブは大きく、育てやすくなります。予算との兼ね合いになりますが、芽数の多いものを選びましょう。
アツモリソウの増やし方
アツモリソウは匍匐茎(地下茎)伸ばして増殖するため、植え替え時の株分けが一般的です。
11月以降の休眠期に掘り起こしてある程度手で根をほぐし、最後はハサミでみっつ、よっつに切り分けます。花後は種子を実らせるものの、ラン科の植物によく見られる特徴として種子には栄養を貯蔵していません。そのため、発芽するときにはラン菌という菌根菌と共生しなければ養分を取り込むことはできないのです。
さらには、自然の条件下では開花するまで10年もかかります。この「簡単には増やせない」点も高価な理由のひとつです。
アツモリソウの植え替え
クリプトモスはラン科の栽培に適しているのですが、その特徴は長くは維持できません。せいぜい2年までなので、2年に1回は植え替えます。
時期は新芽が出る前の春、または花が散ったあとの秋です。どちらでも選べるなら11月がいいでしょう。
根をきれいに洗い流す
株を抜いたら古いコンポストをきれいに洗い流します。このとき、根を傷つけないようにするのはいうまでもありませんが、黒ずんで腐った根、茶色に枯れた根などはハサミで切り取ってください。
バルブを消毒する
アツモリソウで一番怖い病気は軟腐病です。そのために高価な株を失うとショックですから、ストマイ液剤やバリダシン液剤などを利用してバルブを消毒しておきましょう。軟腐病は細菌がもたらす病気で、発症してから薬剤で治療しようとしても難しいため予防に努めます。
根の間にコンポストを詰める
洗い終わったら根を広げ、その間にコンポストを適度に詰めていきます。硬く詰めると水の抜けが悪くなります。植えつける深さは新芽が隠れる程度として、そのあともきつく詰めないようにします。
病気・害虫
茎を軽く引っ張っただけですっぽ抜けるためスッポヌケ病と呼ばれるのが軟腐病です。アツモリソウで一番注意しないといけない怖い病気で、キャベツやハクサイなどの結球野菜によく見られます。
軟腐病が発生するのは水はけが悪く、気温が高い状況で傷口から細菌が侵入した場合です。まず治療は無理だと思ってよく、他の株に伝染する前に処分した方が賢明です。
また、湿気が多いとナメクジが、逆に乾燥しすぎるとハダニが発生します。